2010年3月19日
第48回
陣痛は自制出来る最大の痛み!?
話が主題からどんどん離れてしまいました(私の悪い癖ですね)。実は陣痛は果たしてどれ位の痛みなのか?と云うのがその夜の主題だったのです。そもそも陣痛とは何ぞや!と云う事ですが、それは規則的な子宮収縮の痛みの事です。ここで陣痛と分娩についてのおさらいです。分娩は規則的な陣痛の開始から、子宮口が全開大するまでの第1期、子宮口が全開大してから児の娩出までの第2期、そして胎盤が出るまでの第3期に分かれています。第1期の規則的な陣痛の開始とは10分間隔、又は1時間に6回以上の規則的な子宮収縮(陣痛)の開始を云うと定義されています。それ以前の不規則であまり痛くない陣痛を前陣痛と云いますが、やがて10分置位の規則性が出て来ると、これが分娩陣痛で分娩第1期の始まりです。初めは発作時間も短く、痛みも軽めですが、段々間隔が短くなって、5分置、3分置となり、発作も強くなって40秒から1分くらい続きます。更に俗に1分、1分と云う発作1分、間欠1分の状態になってくると、痛みの強さも最強に増して、しかも次から次へと発作が襲ってくるので妊婦さんに取っては一番辛い時期です。この間に子宮口が少しずつ開いていく訳ですが、この状態は1時間や2時間では収まらず、初産の人では短い人でも10時間位、経産の人も約半分の5時間位は続きます。長い人だと10何時間も続く事がありますので、まるで終りなき拷問の様なものです。一般的に痛みに対しては歯を食いしばって全身に力を入れて耐えるのが普通の耐え方ですが、分娩第1期の頃はまだ子宮口が全開大していませんので、幾ら気張っても児頭は進みません。それどころか圧迫を受けて胎児の状態が悪くなってしまいますので“力を入れないで下さい。力を抜いて痛みを逃してください”と指導していますが、これは生理的な方法ではありませんので、なかなか旨くいきません。ここで役に立つのが呼吸法ですが、いざとなると上手に出来なくなってしまいます。やがて子宮口が全開して分娩第2期に入ると、陣痛の痛みに合わせて力を入れる様に気張ってもらいます。これは生理的な痛みに対する対処の仕方ですので、以前よりは楽ですから、それまで大騒ぎしていた人も、気を取り直して頑張れる様になれます。それでも1~2時間は掛かります。しかし、赤ちゃんが生まれえてしまえば、陣痛の痛みは収まります。胎盤が出る時はほとんど痛みはありません。さて、この陣痛の痛みは果たしてどれ位なのか。と云う事ですが、痛みに関する客観的な尺度がありませんので、他の痛みとの比較は難しいのですが、陣痛経験者によれば“今までに経験したどの痛みよりも痛い”と云う事です。子宮収縮の強さに関しては測定することが出来ますが、痛みの感じ方は個人差がありますので、その値と痛みの感じ方とはパラレルにはなりません。正常な陣痛でも痛みに耐え切れず、声を出したり叫んだりする人は沢山いますが、悶絶して失神する人はいませんので“陣痛は人間が自制出来る最大の痛み”だと云われています。しかし最近は自制できず、パニックになって、“もう我慢出来ないお腹を切って”と騒ぐ人が多くなりましたが、それでも、子供を生むという使命感の為とは云え、女性の陣痛の痛みに対する我慢強さは驚嘆に値すると私は常日頃感動しています。もう一つ、医者は要所、要所で診るだけで何時も妊婦さんの側に居る訳ではありませんが、それに比べ、この激痛にずっと寄り添って、励ましながら優しく面倒を看る助産師の包容力と忍耐力にはほとほと感心します。これぞ“人間が我慢できる限界の包容力”と云えそうです。無事にお産した後で、皆さんもおそらく同じ思いをされるでしょう・・・。
懲りもせず、これからお産をしようとしている愛読者の皆さんを脅かすような事を又書いてしまいました。だめですね・・・私は。でも、“按ずるより生むは易し”と云う昔からの有り難い諺もあります。互いに頑張って良いお産をしましょう!