2025年6月20日
第231回
出生数が70万人を割った!!
 6月3日に長嶋茂雄さんが肺炎で亡くなりました。心からお悔やみ申し上げます。ほぼ同世代の私も彼の大ファンで「長嶋打て、巨人負けろ」と中日を応援していました。
 ミスタープロ野球と言われた国民栄誉賞受賞者の死亡ではありますが、スポーツ新聞など、翌日の一般新聞が一面トップで、しかも全面を使って報道していたのには些か違和感を感じました。幾ら長嶋さんの死でも事件性も無い病死が一般新聞の一面トップ記事になるものなのか。もう少し日本国民にとって報道すべき重要な出来事は無かったのか。それほど日本は平和と言うことか。今世界ではあちこちで紛争の炎が上がっています。又民主主義が崩壊しそうな指導者が闊歩している中で、何だか釈然としない気がしました。

 さて、去年の人口動態速報が出ました。出生数が70万人を割り、68万6061人だったそうです。これは政府推計より15年早く進んでおり、この分だと10年後には30万を割ってしまうかもしれません。死亡数は団塊の世代の人達が死亡し出したので戦後最高の160万5298人となり、差し引き91万9237人減になりましたが、まだ1億2千万人は維持しているとのことです。
 合計特殊出生率は1.15で過去最低を更新しました。合計特殊出生率と言えば東京が0.96で全国最低だそうですが、東京一極集中で特に若い女性の地方離れが顕著で東京に集中しているのに、何故出生率が低いのでしょう。東京に出てくる女性は恋愛はしても、結婚や子供を産むなどと言うことは考えないのでしょうか。仕事一筋ということでしょうか。
 毎年この時期に人口動態速報が発表され、出生数の減少の多さに憂い、私も産婦人科医の一人としてその対策について、このコラムにも自説を提言して来ました。それは国が出産手当一時金の補助などとケチなことを言ってないで(分娩費も全額補助どころか保険適応にすると言っています)子供が成人するまでの育児費用を補助することが大事で、それも一人目より二人目、二人目より三人目を手厚くして、三人子供を育てればシングルマザーでもそこそこ生活できる程度の補助を出すべきだと言うことです。ヨーロッパではそれを実行して合計特殊出生率が2.0に近付いている実績を残している国が有ります。
 しかし、ここ迄出生数が減ると、この制度を維持できるかどうかが危うくなってきました。つまり年々労働人口が減り、現在の数の事業所に必要な人材が集まらないと事業所は縮小するか閉鎖するしかありません。それでは税収が減りますし、労働人口が減れば個人の税額も減ります。成人までの育児補助はかなりの予算が要りますので財政的に維持できなくなるかもしれません。全てが悪循環となってしまいそうです。
 財政的に余裕がなくなれば国力は落ち、G7からは外されてODAを出す側からもらう側に成り下がってしまうかもしれません。まあ私が生きている間にはそんなことにはならないでしょうが、この勢いで人口減少が続けば孫か曾孫の時代にはそんなことになっているかもしれません。
 もう人口増は無理だと思いますので、何とか今妊孕力のある女性が合計特殊出生率2.0を達成してくれるような施策を考えて、1億前後の人口を維持し、日本人の勤勉さと耐久力で住みやすい国作りを目指してもらいたいと願います。
 これはもはや産婦人科医の問題では無く、政治の問題です。